住宅に使われている金属部材の多くは強度を要求されるもの。それだけに腐食は大きな問題です。
しかし、住宅は数十年の耐用年数を誇っており、しかも度重なる強い地震にも耐えています。
これらは強度が必要な金属部材がその要求性能を維持していることに他なりません。
では、それらの部品はどのように腐食に耐えているのでしょうか。
この記事では、住宅の金属部材……特にスチール部材とメッキ技術について、物語形式で紹介します。
物語の背景
主人公は東京都内の50代の建材メーカー勤務のサラリーマン。家族は妻と子供2人。悩みは自宅の老朽化、妻と子供の反抗的態度、小遣いの少なさなど。
ここで登場するのは妻の実母にあたる人。東北地方の海沿いの街の築50年の家に住む。
さて、ある日のこと。妻は自宅の手摺りに若干の腐食を見つけた。それまで金属の腐食などは気にしなかった妻だが、錆でお気に入りの洋服が汚れたのか、とにかく殺気だっていた。
「あんた、手摺りが錆びてたわよ。あの手摺りはメッキがしてあるから大丈夫って言ったじゃない。けど、錆が出ていたわ。お気に入りの服が汚れてしまったわ!」
……いきなりの妻の怒号。いやいや、めんどくせえ……とは思ったが、ヘソを曲げれば夕飯が減る。一応相手をしてみることにする。
「手摺りか……あれは確かにメッキをかけている。まだまだ強度は大丈夫なはずだぞ。」
「けど、錆がついたわよ。白い粉みたいだけど、あれは錆びでしょ?」
「ああ、そうさ。錆びだよ。ただ、メッキ部分の錆びだ。スチール部分の錆びじゃないから強度には問題が無い。」
「なんか難しいわね。」
「ともかく、白い錆びであれば強度的には大丈夫であることが多い。」
「けど、東北の実家はどうなんだろ?……築50年だわよ。」
……しまった。あの家は築50年か。腐食が進んでいるかも知れない。
「あの家、屋根と外壁はリフォームをしていたと思うんだけど、今度の休みの時に実家に行ってみてくれる?屋根なんかが心配だわ。」
大丈夫だろうと思ったが、確認した方がベターだろう。今度の休みは妻の実家に行くことにしよう。
塩の害と金属腐食
ところで、家を出る前に嫁さんに金属腐食の話をしておこう。何かの参考になるかも知れない。
「ところで、ちょっと聞くけど、金属がなんで錆びるか分かる?」
「知らないわよ。けど、水がかかると錆びるんじゃないの?」
「なるほど。良い指摘だな。けど、それでは30点くらいの回答でしかない。正解は『電位差の異なった金属が接触』して、そこに『電解質の溶液』が無ければいけない、ということ。」
「なに?電位差って。」
「金属はそれぞれが固有の電位を持っている。簡単に言うと、電子を取ったり離したりのしやすさ。そして、これが接触すると、電子を取ろうとする金属が電子を離そうとする金属から電子を本気でもぎ取ろうとする。しかし、そのままでは電子が動かない。」
「難しいわね。」
「そして、そこで登場するのが電解質の溶液。これがあれば、電子の受け渡しがスムーズになる。そして、電子が動くと腐食が発生する。……ちなみに、この電子の移動が大きいほど錆びるスピードも上がる」
「やっぱり難しい。」
「まあまあ、とりあえずは『違った金属を接触させて、電解質の溶液を与えて』やれば、金属は腐食するってことなのさ。……そして、ここで出るのは塩。塩は代表的な電解質。だから塩水が降りかかると金属は錆びやすくなる。金属腐食と塩害の関係はここいら辺にあるんだ。」
メッキとは何か?
「次に、メッキについて挙げてみよう。実は、メッキは敢えて違う種類の金属を接触させたもの。例えば、鉄板や鉄パイプに亜鉛をメッキするもの。鉄の素地が丸裸の状態と比較すると非常に長持ちする。」
「まあ、確かに。」
「ところで、ここでのポイントなんだけど、鉄に亜鉛をメッキした場合、電位差はやはり発生している……のだけど、ここで腐食するのは亜鉛の方。塩水が降りかかったとしても、鉄は錆びずに亜鉛が錆びる。つまり、『亜鉛メッキを錆びさせて、鉄の素地を守る』ことなんだ。鉄素地が腐食しないのであれば、その構造の強度は落ちないからね。」
「あら、それじゃ、服についた錆びっていうのは?」
「そう。亜鉛の錆びだよ。亜鉛の方だけが腐食しているのであれば、鉄の構造部分は問題が無いってことさ。……ちなみに、亜鉛と鉄では錆びの色が違う。亜鉛は白い錆びが出るが、鉄は赤だ。」
「なるほど。色でも分かるのね。」
「そういうことさ。」
スチール部材のメッキ技術について
「ところで、話に出た亜鉛メッキの他にもメッキの方法はあるんじゃないの?」
「あるよ。鋼板を例にすると、亜鉛メッキ鋼板の他にも、ガルバリウム鋼板やSGL鋼板なんかがあるね。」
「教えてよ。それ。」
亜鉛メッキ鋼板
「まずは亜鉛メッキ鋼板。古くからあるメッキ鋼板なんだと思う。昔はトタン板とも言われていた。住宅の屋根に『トタン屋根』と呼ばれるものがあったけど、あれなんかは亜鉛メッキ鋼板だよね。」
「なるほど。けど、昔からあるんじゃ、今の素材よりも劣らない?」
「確かにそうだ。亜鉛メッキ鋼板は錆びにくくはあるけど、今のものよりも性能的には劣るだろうね。ただ、コストが安いメリットがあるので残っていると言えるかも知れない。」
ガルバリウム鋼板
「次にガルバリウム鋼板。これは亜鉛にアルミ、そしてケイ素をプラスした合金でメッキをしたもの。亜鉛メッキよりも腐食に強いんだ。そのため、屋根材だけじゃなくて、外壁材にも使われて来た歴史がある。」
「なるほど、亜鉛メッキよりも強いのなら、確かに置き換わるわよね。」
「そういうことさ。」
SGL鋼板
「次に、数年前に登場した素材だ。『SGL鋼板』というもの。アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、そしてケイ素の合金をメッキしたものさ。ガルバリウムよりも錆に強くなっている。」
「なんで錆びに強いのかな?」
「マグネシウムが加わることによって、腐食する際の電子の受け渡しを抑制する効果があるらしい。その結果として腐食に強くなるんだ。」
「マグネシウムってすごいのね。」
耐食性試験について
「ところで、部材の腐食を確認する手段ってないのかしら?」
「金属腐食は置かれる環境によって発生メカニズムも違うので一概には言えないけど、参考にはなる試験はあるよ。」
「試験ってどんなの?」
「塩水噴霧試験と複合サイクル試験なんかが代表格だろうね。」
「なにそれ?」
塩水噴霧試験
「まずは塩水噴霧試験から。これは専用の試験槽の中に試験体を設置し、その試験槽を塩水の霧で充満させる試験。試験は24時間連続で行うんだけど、試験時間は試験体によって変える。例えば、一般の地域であれば600時間、腐食が激しい場所であれば1000時間、って言う感じだ。」
「なるほど、それじゃ条件が厳しいわね。」
「けど、そこも判断が難しいんだ。と言うのも、屋外の暴露環境は塩水の充満した試験は厳しくはあるんだけど、日光も当たらないし温度も一定。しかし、屋外の環境はケースバイケース。雨だって降るし、気温だって上昇する。」
「条件は確かに一概には言えないわね。」
複合サイクル試験
「次は複合サイクル試験。これは単に塩水を噴霧するだけではない。塩水を噴霧した後で高温の時間を設ける。それによって試験体に付着した塩水が乾燥して結晶化するなど、塩水噴霧と違った環境が生まれるんだ。」
「なかなか凝った試験になっているのね。」
「まあ、そうだろうね。ただ、この試験は1つの大きなポイントがあるんだ。ステンレスの評価に役立つんだ。ステンレスは表面が強固な被膜でおおわれているけど、塩はこの被膜を破壊する。そこから錆びが発生して、評価が出来るのさ。」
「なるほど。環境を変えれば色々な状況確認が出来るものね。」
古い住宅は問題が無いか?
「ところで、古い家なんかはどうかな? 実家なんかは50年も経っているから。」
「リフォームそのものが古くないのであれば、あまり大きな問題ではないとも思う。」
「どういうこと?」
「リフォームに使う資材が新しいのであれば腐食に対しても強いと言えるから。例えば、50年の家を10年前にリフォームしたのであれば、比較的新しい資材を使っていると思う。資材が比較的新しいのであれば、腐食の問題も大きくならないだろうな。」
「となると……実家は?」
「問題ないと思う。……ただ、一応の確認はした方がいい。行って来るよ。」
後日談
……さて、実家に行ったのだが、それは意外な展開となった。
「こんにちは!」
「おお、よく来てくれた。壁と屋根が大変なことになってるんだわ。」
「大変なことって、やっぱり錆びちゃってます?」
「いや、もっと大変なこと。」
「と言うと?」
「ハチが家に巣を作ったんだよ。いつ刺されるか分からないから大変な思いをしている。だから、今は錆びなんかはどうでもいい。蜂対策を頼むよ。」
……おい、蜂なんて聞いてないぞ。………けど、断れないぞ。………困ったぞ。
「じゃ、頼んだよ。
………やっぱり蜂退治か。こういう仕事しか無くなってしまうのか。……とほほ

