【物語の背景】
主人公は東京都内の50代の建材メーカー勤務のサラリーマン。家族は妻と子供2人。20年前に一戸建て住宅を購入。悩みは老朽化する家と小遣いの少なさ。子供は反抗期真っ最中。
最近は妻の家づくり欲求がヒートアップ。今回は窓をネタに主人公に噛みつく模様。
「あんた!ネットで見たんだけど、窓って意外に劣化しちゃうみたいじゃない。ウチの窓って壊れちゃうの?」
……またネットでヘンな記事を見つけたか。窓が爆発するとも思ったのかね?
「大丈夫だよ。窓は爆発なんかしないよ。」
「だって、ガラスだって割れたりするんじゃないの?」
「まぁ、ガラスが割れるのは別の原因だろうが、周囲にまわしているビードは劣化するよね。」
「なに?そのビードって」
「窓ガラスを押さえているパッキン材みたいなもの。サッシのガラスの周囲にゴムみたいなのがまわしているだろ?それがビードさ。」
「劣化するとどうなるの?」
「窓の性能が落ちる場合がある。」
「??????」
嫁さんは「窓の性能」って聞いて、目を白黒している。まぁ、普通に使っていれば「窓の性能」なんて知らないだろうもんな。そこは仕方ないだろう。
「まぁ、いいや。窓の性能について講釈してやろう。」
「嫁さんは黙ってうなずいた。」
サッシは古くなると性能が落ちる?
「ところで、今の住宅と聞くと『高気密』『高断熱」っていうイメージって持ってない?」
「まぁ、よく聞くわね。『高気密』『高断熱』だから住み心地が良いって」
「確かにそうだよな。昔の家なんかじゃ『隙間風』なんてよく言ったもんな。けど、今は違うだろ?」
「確かにそうだわね。」
「んじゃ、どうやって『高気密』『高断熱』を実現させていると思う?」
「それはしっかりと固定しているからでしょ?」
「しっかりと固定したとしても、空気は漏れるもんさ。けど、昔に比べて隙間風のような言葉を聞くことが減った。何でだか分かる?」
「それが分かれば聞かないわよ。」
「確かにな。実は、隙間をゴムなんかのパッキンで止めているケースが多いからだ。窓ガラスなんかは良い例だ。ゴムで固定して気密性と水密性を実現している。」
「それじゃ、そのゴムが劣化したら気密性なんかも落ちちゃうわけ?」
「まぁ、そういう可能性も出て来るよね。」
接着剤は便利な素材だが……
「けど、そんな隙間ができたんなら接着剤か何かでくっつければいいんじゃない?ホームセンターに行けばいろんな接着剤が売っているじゃない。それこそガラスだってくっつく接着剤があるわよ。」
「確かにホームセンターでは接着剤は売っている。ガラスがくっつくタイプもあるだろう。しかも強度が高くて、長期間使えるタイプもある。ある意味で万能とも思えるものも少なくない。」
「それじゃ、いいじゃないの?仮に交換することになったとしたって、サッシ屋さんを呼ぶとお金がかかるし」
「ちょっと待て。そこには問題が2つあるぞ。」
「どういうこと?」
「まずは『接着剤は何にでも使える』ということ。確かにくっつくが、逆の意味では『外れなくなる。』これはサッシの場合は非常にマズい。」
「なんで?」
「ガラスの交換ができなくなるからさ。仮に台風かなにかで物が飛んできて割れた時なんかにはガラスの交換が必要だ。けど、サッシ枠なんかにガラスがくっついていたら、ガラスの交換ができない。下手をすりゃ、窓枠からの交換だ。」
「なるほどね。けど、2つ目もあるんでしょ?」
「そう。2つ目はサッシのガラス交換は素人がするべきじゃないってこと。確かに構造なんかは簡単みたいだけど、きちんと施工しなければサッシの気密性や水密性なんかの性能は出ない。場合によっては隙間風なんかもあるかも知れない。」
「そういうことね。」
嫁さんは納得した様子だった。
建材なんかに使われる工業用接着剤と家庭用の接着剤
「でも、接着剤って便利よ。実際、工業製品を見ても接着剤って使われているみたいじゃない。」
「そうだよな。確かに使われている。例えば、ドアの中なんかじゃ接着剤が相当に使われている。」
「へぇ、それは意外だわ。けど、そんなところに接着剤を使ったらマズいんじゃない?」
「確かにホームセンターに売っているようなレベルじゃヤバいだろ。けど、工業製品はあくまでも工場で製造される。」
「どう違うの?」
「良い例が温度条件なんかがある。例えば、窯を使う例だな。高温の環境下で接着する接着剤を使う。」
「要は、家庭では使えないような場所で使うってわけ?」
「まぁ、そうだ。工場では結構厳しい環境が人工的に作られて製造される。しかし、家庭では使用者の安全を第一にする場合が多い。有害な物質なんかはホームセンターで買えるものには少ない。」
「なるほどね」
サッシの性能ってどんなのがあるの?
「んじゃ、さっき出たサッシの性能ってのはどんなものがあるの?」
「いろんな性能があるが、代表的なのは『気密性』『水密性』『耐風圧性』だろうな。」
「どうやって確認するの?」
「これは試験で確認する。」
「へ?」
嫁さんは相変わらず目を白黒させている。話を続けよう。
サッシの気密性試験
「まずは気密性だ。これは、サッシの表側に弱い圧力をかけて、サッシの隙間から漏れる空気の量を測定する。」
「弱い圧力って?」
「特殊な箱状の機械を使う。片側にコンプレッサーで気圧を上げて力を加えて、裏側でその漏れた空気を『風』として感じて測定する。」
「まぁ、分かったことにしましょ。」

サッシの水密性試験
「次は水密性。これも同じような装置を使う。表側に圧力を掛けながら水をかける。そうすると、雨が吹き付ける状態が再現できるんだ。ちなみに、圧力は強弱を付けさせる。風圧力の変動の再現だな。」
「なかなか難しいのね。」

サッシの耐風圧性
「そして、耐風圧性。これも同じような装置で行う。台風レベルの風圧力をコンプレッサーでかけてサッシがどれくらい変形するかを測定する。」
「なるほど。これは少し分かるわ」

サッシには接着剤って使えるの?
まぁ、そんな感じでサッシにも性能があるわけだ。だから、素人判断はよろしくない。
ガラスの交換ができなくなったりしたらマズいだろ。」
「そうだわねぇ。」
後日談:接着剤とサッシを話し終えて
「あんた。少し厄介なことがあるんだけど。」
……なんだよ。また面倒な話か?
「どうしたんだよ?」
「実家なんだけど、窓を接着剤でくっつけて開かなくなったってことらしいの。」
「なんかお義母さんと話した?」
「うん、窓で困っている様子だったから、『接着剤は使うな』って言ったのね。そうしたら「接着剤を使えって聞き間違ったらしくて、窓をくっつけたらしいの。」
……こりゃ困ったことになったぞ。
「だから、あんた実家に行って、治してよ。頼んだわよ!」
……嫁さんの命令か。宮城県までの休日出張だよ。疲れるんだよなぁ。とほほ。
接着剤とサッシについての追加情報
ここでは「接着剤の話」と「アルミサッシの話」を絡めて書きました。2つの点でもう少し情報を追加したいと思います。
家庭用の材料と工業用の材料
今のホームセンターは非常に便利で塗料から接着剤、さらにはテープまで販売されています。そのため、それらの材料があれば何でも作れるようにも思えてしまいます。
実際、DIYの上級者はホームセンターで資材を購入して多くのものを作っています。そして、その製作状況などを動画にしてネットにも上げています。
その動画を見れば非常に参考になると思えるかも知れません。
しかし、危険なところも見えてしまいます。それが物語の中で述べた「接着剤」の部分。この部分などは家庭用と工業用では分けて考えなければいけません。接着強度の他にも、耐候性などでも違う場合が多いからです。
ちなみに、工業用の接着は接着剤の特性をカタログチェックで済ませるのではなく、実際に試験をしているケースが少なくないです。安易な接着な危険であると判断するべきでしょう。
サッシの性能について
サッシの性能は前に述べたような試験で確認されます。
代表的なのは先に挙げた「気密性」「水密性」「耐風圧性」などですが、これに加えて「遮音性」「防犯性」などもあります。いずれにおいても厳重なチェックが行われているので、性能確保のためにも、安易にDIYで修繕することはおすすめできません。
ちなみに、サッシのJIS(JIS A 4706「サッシ」)の先に挙げた試験方法は次の通りです。厳重であることが分かると思います。
●JIS A 1515(建具の耐風圧性試験方法)
●JIS A 1516(建具の気密性試験方法)
●JIS A 1517(建具の水密性試験方法)
そのほかにも、断熱性、遮音性などについても確認されます。
ちなみに、サッシの性能を十分に引き出すためには施工技術が欠かせません。DIYでの施工も可能に見えますが、専門業者に任せる方が得策でしょう。
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意外かも知れない……風の強さは高さで決まるってホントなの?

