【物語の背景】
主人公は東京都内在住の50代の大手建材メーカーの会社員。家族は妻と子供2人。20年前に一戸建て住宅を購入。悩みは老朽化する家と小遣いの少なさ。子供は反抗期真っ最中。
ここでの話は主人公の後輩のエピソード。古い家を見つけて買おうとするところからの始まり。
「センパイ。少し相談です。古い家を見つけてリノベーションをしようかと思うんですが、少し迷うところがあるんです。」
「と言うのはなにかな?」
「不動産屋と話したときに『壁が薄そうだね』って言ったら、『壁はこんなもんですよ。』って言われたんです。どうしたものか、と思いましてね。」
「なるほど、確かに昔の家は壁が薄かった。」
「それで、どうしようかと思いまして。」
「本気でやるならば防音リフォームになるだろうな。」
「リフォームですか。大変そうだなぁ。けど、参考になりそうだから教えてください。」
「分かった。けどその前に、住宅性能から復習しよう。」
古い家を購入してリノベーション……音の面ではどうなの?
「最初に昔の家の状態からの復習だ。」
「はい。」
古い家の魅力
「まずは、古い家のどんな点に魅力を感じたか、改めて教えてくれ。」
「それは何と言ってもコストですよね。確かに古いんで頼りないとは思いますが、その点はリノベでカバーが可能ですから。」
「確かにリノベーションでの対応は可能だ。住み心地が劇的に良くなるもんな、しかし、注意が必要なんだ。例えば、古民家なんかであれば、古い和風建築のテイストを残そうという人が少なくない。」
「確かに、和モダンってカッコいいですもんね。」
「しかし、和モダンの建築ってどこまで残すかが意外と疑問だ。特に『壁』がね。」
「どういうことです?」
「壁が薄い。……つまり、遮音性の低い壁も意外とあるんだよ。」
住宅性能は???
「ところで、今では住宅の性能が結構明確になっている。例えば、ドアなどは遮音性の規格があるから分かりやすい。一般の住宅で使えるドアもあれば、コンサートホールのような場所の高い遮音性を誇るタイプもある。」
「へぇ、すごいんですね。」
「しかし、昔の住宅はそこまでの規格は無かったものとも思われる。そのため、遮音性なんかも少ない。だから壁が薄かった。……実際、古いアパートなんかは隣の声が聞こえた、なんて話もあったほどだもんな。」
「なるほど。レベルが低かったんですね。」
「全部の家が……とは言えないが、そんな傾向は確かにあっただろうね。」
音について
「ところで、ここで『音』について復習したい。」
「音ですか?」
「そうだ。遮音性の概念の理解のためには、音について知った方がベターだからな。」
音について再確認
「音には2種類あるの知っているか?」
「聞いたことあります。空気の振動として伝わる『空気音』と、固体の振動として伝わる『固体音』ですね。」
「そうだ。そして、壁の問題となると、基本的には空気音が問題となる。」
「固体音は無しでもいいんですか?」
「重低音なんかを話すんであれば固体音の話も必要だけど、『壁が薄い』なんて現象は『会話が聞こえる』とかの弊害だから、空気音でいいだろ。」
「確かに。」
音の高低
「ところで、音の大きさってどんな要素があるか分かるか?」
「簡単なところだと、高低差と大きさかなぁ。」
「簡単に言うとそうだな。まずは高低差について説明しようか。」
「はい。」
「音の高低差は振動の周波数Hz(ヘルツ)で表現される。この内、人間が聞き取れる音は大体20Hz~20,000Hzとも言われる。」
「次に感じ方だけど、音楽の時間に『オクターブ』って習ったろ?」
「はい。」
「簡単に言うと、ドレミファの『低いドの音から高いドの音』までだよな。これが1オクターブ。1オクターブは周波数が2倍になる。例えば、20Hzの音が1オクターブ上がると40Hzになる感じだ。そして、空気音になりやすいのは高い音とも言える。逆に、固体音は低い音だよな。例えば、隣の音で音楽をかけると、隣の部屋には重低音が伝わる。」
「難しいですね。」
「そして、壁を越えて聞こえるのは会話とか。だから、高い周波数の音をなんとかすれば良い。」
音の大きさ
「次に『音の大きさ』だ。こちらはdB(デシベル)と呼ばれる単位を使う。このdBって単位もオクターブと似ていて『比率』を現す。ある音の大きさの100倍のパワーが加わると20dB上がったってことになる。これは人間の『感じ方』の特性からだと言える。」
「どういうことですか?」
「例えば、10kgの荷物を持って、その重みを徐々に増やす場合、大体1割くらいアップした時に『重い』って感じる。それと同じように、1kgの場合も1割アップで重さの変化を感じる。」
「それは初めて知った」
「そんなわけで、ある大きさから100倍上がった時点で20dB上がった……ってイメージになる。」
「なるほどね。」
D値について
「そこで、壁の話になる。実は、壁の遮音性は意外にアバウトになっている。そのため、壁が薄い建物も存在する。しかし、一応の値は存在する。それが『D値』だ。」
「D値ですか。」
「そうだ。これは空気音遮断性能とも言われるもの。ここでデシベルの考え方が出る。壁がどれくらいの空気音を遮断するかの特性だよな。んで、D値はD-30~D-60までの階級がある。かなりザックリだが、D-30は30デシベルの遮音、D-60が60デシベルの遮音って感じ。その階級をクリアできるかどうかで遮音性が決まるんだ。」
「分かりにくいですねぇ。」
「まぁ、確かにそうだろ。けど、次のように表現したらどうかな?かなりザックリだけど。
●D-30:遮音性はかなり低く、声がはっきり聞こえるレベル。
●D-40:遮音性は少し上がる。話声が小さく感じる。
●D-50:普通の会話はほぼ聞こえない。
●D-60:かなり高いレベル。集合住宅なんかにも採用アリ。
「確かに面倒な説明だけど、これで納得して欲しい。」
「分かりました。納得したことにしておきます。」
「ただ、リフォームで防音を目指す時には、一応でも言っておいた方がいいかも。遮音を知っている人がいれば、考えてくれる可能性もあるからね。」
壁の音漏れの対策とは
「次は実際の防音の手段だ。」
「やっとですね。音の講釈が長すぎてどうしようかと思っていました。けれども、壁が薄いことは厄介ですね。彼女といる時の会話なんかも聞かれるんでしょ?」
「それは彼女ができてから言ってくれ。」
「ともかく、壁の防音手段としては、次の3つくらいが挙げられる。」
●遮音シートを壁の表面に貼る。
●壁の二重化。(石膏ボードを二重にするなど)
●壁の内部にグラスウールなどの吸音材を入れる。
まぁ、和モダンの古いイメージを残そうとするならば難しいかもな。壁に何かを貼るならば雰囲気が壊れるし、壁の内部をいじるならばカネが必要だ。難題だな。」
「ここは借金しても壁の中をいじりますよ。資産になるし。」
「それだって怪しいぞ。壁をいじると表面が新しくなってしまうだろ。そうすると『古さ』の演出が難しい。和モダンではなくなるぞ。」
「そうですね。……とほほ。」
おそまつ。
壁の遮音性についての追加情報
この物語では壁の遮音について取り上げました。壁の遮音性能はドアなどのような厳格さがない場合も多いらしいのですが、「音の通過」を覚える上で重要だと思います。
家づくりにおいては家族のプライバシーを尊重することも非常に重要。部屋を作る時には壁の防音も高めてあげてはどうでしょうか?
もしかすると、「子供の声が聞こえないと不安過ぎる」という声も聞こえるかも知れませんが、そこは親としての貫目を見せて、子供を信用してあげましょう。
それでも声を上げるならば、こちらも壁を作りましょうか。聞こえないレベルのD-60での壁をね。
参考資料
出展
JIS A 1419-1:2000
建築物及び建築部材の遮音性能の評価方法-第1部:空気音遮断性能
https://kikakurui.com/a1/A1419-1-2000-01.html
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