【物語の背景】
主人公は東京都内の50代の建材メーカー勤務のサラリーマン。家族は妻と子供2人。20年前に一戸建て住宅を購入。悩みは老朽化する家と小遣いの少なさ。子供は反抗期真っ最中。
「あんた、ちょっとお願いがあるんだけど」
……来たぞ。いつもの嫁さんの「お願いがある」ってセリフ。あれって猛烈にイヤなことばっかり言われるんだよな……。
「また宮城まで行って欲しいのよ。何でも実家を増築するらしいのよ。」
「え? んじゃ大変だ。確かに行かなけりゃならんな。」
「増築って難しいの?」
「条件によっては危険だ。行ってみるよ。」
かくして、毎度ながら宮城県の築50年の家に向かった。
増築について
「お義母さん。こんにちは。増築するって伺いました。お話を伺うことは出来ますか?」
「ええ、いいよ。けど、またなんで?」
「いや、増築って意外と難しい面があるから、聞いておこうと思いまして。」
「そういうことか。いいよ。」
そもそも増築とは
「少し講釈っぽくなるけどゴメンなさいね。まずは『増築』について取り上げましょう。『増築』は呼んで字のごとく、「家屋を広くする工事」って言えると思います。しかし、増やせる部分は限られています。例えば、建物の横への増築は比較的容易かも知れませんが、縦方向への増築は簡単ではありません。」
お義母さんは少し疑問を持った様子だ。
「縦方向への増築って言うと?」
「例えば2階建てから3階建ての増築なんかは、結構な条件が揃わないと難しいです。」
「なるほどね。」
「そういう人たちは部屋が増やせないから、住み替えるのかも知れませんね。」
「そうだわね。」
建ぺい率や容積率には注意が必要
「ところで、増築は無制限には出来ません。土地には建てられる建物の制限があるからです。それが『建ぺい率』と『容積率』です。建ぺい率は土地の中の『建物を建てられる面積』で、土地に対してパーセンテージで表現されます。また、容積率は建てられる家屋の延床面積の制限です。」
「なるほど。ボンヤリしか知らなかったけど、そうだったのね。」
「はい。例えば、100㎡で建ぺい率50%、容積率100%の土地の場合、50㎡の2階建ての家屋ということになります。100㎡の土地の建ぺい率50%だから、2階建てで1階と2階の両方が50㎡、合わせて床がトータルで100%の家ですね。」
【ここでのポイント】
増築について
●増築は家屋を広くする工事
●建ぺい率や容積率には注意が必要
増築の意外なリスク
「ところで、増築って意外にリスクがあるのをご存じでしたか?」
「え???」
お義母さんは少し驚いた様子。
「増築にもリスクがあるんです。」
「そうなの?教えてよ。」
地盤沈下のリスク
「地盤沈下をご存じでしょうか?」
「あぁ、昔は結構問題になったわね。地下水を汲み上げ過ぎて被害を受けたとか。」
「実は、地盤沈下の話は昔だけではありません。今の起こり得る不具合なんです。」
「けど、それと増築がどう関係するのよ?」
「増築すると建物の重量が変わります。しかも、既存の部分の新規の部分の重量バランスが悪いことも。そして、地盤が支えるだけの強さが無いと、建物が沈んだり、傾いたりするんです。」
「なるほどねぇ。」
「また、基礎が壊れる可能性もあります。例えば、昔の基礎と今の基礎は仕様が違うケースが意外にあります。そうなると重量のある基礎が沈みやすくて、基礎のつなぎ目が壊れる、というケースがあり得るのです。」
「ありゃりゃ、それは大変。」
「そうなんです。大変なんですよ。」
耐震性への懸念
「また、耐震性への懸念も否定はできません。と言うのも、増築の場合には壁の撤去が伴うからです。」
「壁を取ると弱くなるのかい?」
「はい、壁は横からの力に耐えるのに必要です。しかし、その部分を撤去したならば、横からの力に耐えられません。地震なんかの横揺れに弱くなるんです。」
「それも大変だ。」
「しかし、この問題は解消されている場合が多数派です。と言うのも、増築の場合は構造を補強しながら作るからです。そのため、増築した方が強くなった、という例もあるんですよ。」
「なるほど、分からないもんだねぇ。」
壁にひび割れ
「壁にひびが入る場合もあります。」
「壁も?」
「はい。壁もです。建物の既存の部分と新しい部分の接合部が変化したら、やはり建物に『ひずみ』が走ります。この『ひずみ』が壁のひびとなって現れるのです。」
「小さい部分に現れるのね。」
扉の開閉に支障が出る
「扉の開閉に支障が出る場合もあります。簡単に言うと「建付けが悪くなる」イメージですね。今まで軽い力で開け閉めが出来ていたのに、だんだんと重くなる感じです。」
「それはどうして?」
「それもひずみの影響です。扉の枠が歪んでしまうからです。」
ライフラインへの影響
「あと、ライフラインへの影響もあり得ますね。」
「そうなの?」
「地盤沈下をすると、給排水管なんかに影響が出ますよね。ちょっとした沈下ならば問題にならないかもですが、沈み幅が大きくなると危険です。
【ここでのポイント】
増築にはリスクがある
●地盤沈下のリスク
●耐震性への懸念
●壁にひび割れ
●扉の開閉に支障が出る
●ライフラインに影響し得る
増築時の注意点
「こんな感じで増築にはリスクがあるのですが、その問題は対策を打たなければいけません。まぁ、注意点があるんですね。」
「なにさ?その注意点って?」
「はい、主なものとしては次のようなものです。」
地盤調査を忘れずに
「まず必須なのが地盤調査ですね、地盤がしっかりしてなければ増築した部分が沈んでしまいますんで。その前段階として、地盤を確認する必要があるんです。」
「なるほど。確かにね。」
既存基礎と増築部分の基礎を確実に繋ぐ
「次は『既存基礎と増築部分の基礎を確実に繋ぐことです。基礎の接合が確実でないと、その部分から壊れる場合があるからです。」
「確かに基礎が壊れたら、建物全部がダメだね。」
「そうです。だから接合は重要なんですよ。」
耐震補強には気を付けて
「先にも挙げたように、増築の際には壁を撤去します。そして、そのままだと建物が弱くなり、地震に弱くなってしまいます。」
「さっき言っていたわね。」
「そうです。けど、その問題は補強によって何とかなります。だから、施主としては工事会社に耐震性について念押しをするべきだと思います。よほど悪質な会社じゃないと手抜きはしないと思いますが、業者選びはハズレがありますんで、念押しは必要なんです。」
「なるほどねぇ。気を付けなくちゃね。」
物陰を作るのは防犯面でのマイナスになることもある
「次に挙げるのは建物の影響ではなく、敷地全体の問題です。増築すると、家屋に物陰ができることが少なくありません。そして、その物陰は侵入者の恰好の隠れ場にもなり得ます。特に、そこに勝手口なんかがあれば危険です。」
「それは意外だわね。防犯が絡むのは知らなかったわ。」
「ええ、そこは盲点です。防犯カメラか何かが必要かも知れませんね。
「そうだわね。」
かくして、自分は嫁さんの実家を後にした。良い家ができるといいね。
【ここでのポイント】
増築時の注意点
●地盤調査を忘れずに
●既存基礎と増築部分の基礎を確実に繋ぐ
●耐震補強には気を付けて
●物陰を作るのは防犯面でのマイナスになることもある
後日談:増築について話した後でのエピソード
帰宅して数日後のこと。嫁さんと増築について話が出た。
「お義母さんの家って増築したの?」
「いや、できなかったみたい。」
「あら、それはまたなんで?」
「今の建物の部分の方にシロアリ被害があったらしいのよ。そっちが先ってことになって、諦めたみたいね。」
「なるほど、そうか。そりゃ仕方ない。」
「けど、今度の休みの時に行って欲しいのよ。」
「なんでまた?」
「家の中を調べてたいらゴキブリの巣が出て来たの。」
「なに、ゴキブリ???」
聞けばゴキブリが突然出て来てお義母さんは卒倒したとのこと。ゴキブリ退治をしようとしたが、腰が抜けてできなくなったらしい。それで、こっちに指令が下った……ってわけだ。
「……俺だってイヤだぞ。ゴキブリなんて。」
「けど、お金で世話になったもんねぇ。」
そうだった。お義母さんには住宅資金で相当に世話になったんだった。けど、それを出して来るか?
「いいでしょ?行ってきてよ。……行きなさいよ。」……だんだんと語気が強くなった。
「ハイハイ行きます。行けばいいんでしょ?」 かくして主人公氏はゴキブリ駆除の旅に行ったのであった。
おそまつ。
教訓:増築について
ここまで家屋の増築について述べて来た。意外にリスクがあることに驚いた人も多かったのではないかと思う。
さて、ここでの記事の要点をまとめてみたいと思う。
1)増築について
●増築は家屋を広くする工事
●建ぺい率や容積率には注意が必要
2)増築にはリスクがある
●地盤沈下のリスク
●耐震性への懸念
●壁にひび割れ
●扉の開閉に支障が出る
●ライフラインに影響し得る
3)増築時の注意点
●地盤調査を忘れずに
●既存基礎と増築部分の基礎を確実に繋ぐ
●耐震補強には気を付けて
物陰を作るのは防犯面でのマイナスになることもある 家を広くすることは住み心地にも関わるので検討する人も多いことだろう。
しかし、注意をしないと問題が発生し得る。注意点をクリアしながら家づくりを進めて欲しい。
増築についての追加情報
増築する上で地盤が非常に重要であることが分かったのではないでしょうか。増築工事は多額の費用がかかるもの。失敗は許されないことでしょう。
ところで、この地盤調査は法令でも決まりがあります。
次のサイトで確認が出来るので見ておきましょう。
出典
NPO 住宅地盤品質協会
住宅地盤に関する法令
https://www.juhinkyo.jp/knowledge/column/jibanhourei/
参考資料
出典
NPO 住宅地盤品質協会
住宅地盤に関する法令
https://www.juhinkyo.jp/knowledge/column/jibanhourei/
最終閲覧日:2026年2月5日
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